私は消化器外科医でしたが、15年前に開業し、人間ドック専門のクリニックに従事していきました。
日本人は胃がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん、すい臓がんでなくなる方が半数以上です。これらは消化器外科医の診療の対象となります。
私は外科医でしたので、がんを発症してしまった患者さんばかり診て来ました。 進行した場合の手術の難しさ、抗がん剤の副作用のつらさ、手術不能の進行がんなど、がんが進行した場合の困難にいやというほど直面してきました。 がんですから、多くの死に向き合ってきました。 そこでいつも思うのは、もう少し早く診断できていれば、あるいはもう少し早くがん検診を受けていればという事でした。 がん診療の現場にいると、つくづく定期的ながん検診の重要性を思い知らされていたわけです。 従って、開業してからは人間ドックでの早期診断と予防に力を入れてきたのです。
医学の進歩は目覚ましいものです、私が開業する前に外科医をしていたころは大分今とは状況が違いました。 以下に列挙したいと思います。
- ・胃がんの原因がヘリコバクターピロリで除菌すると胃がん発症を予防できると分かった
- ・大腸カメラが普及しポリープを切除し大腸がんを予防できるようになった
- ・肝炎ウィルスの治療が進化し肝がん発症が減った
- ・乳がんの手術で温存術が増え乳房を切断しなくてよくなった
- ・すい臓がんの治療で延命ができるようになった
- ・肺がんと喫煙の因果関係がはっきりし、禁煙によって肺がん発症予防ができることが分かった
日本人の死因の第一位はがんで3割の方ががんで命を失っています。 しかし、上記のように日本人のメジャーながんは予防も早期診断もでき、多くの方は本来死ななくてもよかったのです。
勇んで開業はしましたが、40代50代でもがん検診の受診率は4割で、60代以上はどんどん受診率が下がってしまうということがわかり愕然としました。
「医学の進歩をできるだけ多くの方に享受していただきたい」
受診率を高め、健診結果を正しく理解して実践していただく事が重要です。 その実現のために、私たち医療者が適切な情報提供をしつつ、良質な人間ドック、健康診断を選ぶお手伝いをしたいと思います。
人間ドックの施設による違いのメインは胃がん検診です。 胃カメラは早期胃がんの診断には必須です。バリウムでは早期胃がんの診断は困難なのです。 また、バリウムでは技師は診断せず、後日画像を医師が確認して診断します。どうしても結果報告に時間を要します。 バリウムが一般的なのには理由があります。 胃カメラは医師を看護師が行い、バリウムの検査は技師一人で行うので、胃カメラはどうしてもコストが掛かってしまうのです。
私もバリウムでの胃がん検診の診断を担当していた時期があります。そこではいろいろなトラブルに苦慮してものです。げっぷをしてしまって胃がしぼんでいたり、バリウムが腸に流れて胃の画像にかぶってしまったり、粘液が多くてバリウムが胃壁に乗らずよく見えなかったり。 被験者の慣れや技師のレベルによって画像の質が一定しないのです。したがって早期胃がんの診断は容易ではありません。 もちろん胃カメラでも腕の差は出ますが、早期胃がんを見逃すことはまずないと言えます。 また、胃カメラには同時に保険診療でヘリコバクターピロリの検査を受けることができるメリットがあります。ピロリ菌を検出して除菌をすることで、60歳までなら9割以上の胃がん発症を予防できるので、重要なことです。
一昨年前から自治体のがん検診で、胃カメラを選択できる地域が増えてきました。 しかし、健保組合の検診を主に行っている施設ではいまだにバリウムが主流です。 これには理由があって、費用が限られているためなのです。
教えてドックでは、胃カメラを選択できる施設のみをご紹介しています。
人間ドックは2年に一度受けるのが標準的です。 合間の年に特定健診を受ければ十分といえます。
費用が大きく異ならないのであれば、より意味のある人間ドックを受けたいのものですね。