人間ドックとは?
人間ドックにどんな印象をお持ちですか?
公的健診と違って自費であったり、検査項目が多いというイメージでしょうか。
実は医療機関で行われている人間ドックには統一した基準はなく、施設によって大きく異なるのです。
一般的には人間ドックは日本人の死亡の原因となるメタボリックシンドロームとがんについて同時に診断するのものです。
公的に年に一度行われる特定健診(メタボ健診)には体測定、視力、聴力、採血、胸部レントゲン、尿検査が含まれます。
死因の3割を占めるメタボリックシンドロームからの血管性病変の予防が主な目的です。職場によっては30代から始まります。
人間ドックでの特定健診の部分では施設間に差はありません。
がん検診は一般的には40歳から始まり、2年に一度行われます。
がんによる死亡は死因の3割を占めます。がん検診では、早期でのがんの診断を目指します。
項目として肺がん、胃がん、大腸がんが共通で、女性には子宮がんと乳がんの検診が加わります。
ほぼすべての人間ドックに特定健診は含まれますが、がん検診の内容が差があります。
人間ドックでわかること
- 1. 健診専門医療機関
- 健保組合や自治体の検診を主に行っている施設です。胃がん検診は胃透視(バリウム)が主流です。
- 2. 総合病院や開業医
- 施設によりますが、胃がん検診が胃カメラ、バリウムを選べる傾向があります。
- 3. 画像診断専門施設
- MRI、CT、PETを専門にしていて、胃がん検診は胃カメラもバリウムを行わない場合があります。
がん死亡数予測(2018年)
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男 女 計 部位 死亡数 全がん 379,900 肺 77,500 大腸 53,500 胃 45,900 膵臓 34,900 肝臓 27,000 胆嚢・胆管 18,600 乳房(女性) 14,800 悪性リンパ腫 12,600 前立腺 12,400 食道 11,300 腎・尿路(膀胱除く) 10,000 膀胱 9,100 白血病 8,600 口腔・咽頭 7,900 子宮 6,700 卵巣 4,800 多発性骨髄腫 4,400 脳・中枢神経系 2,800 甲状腺 1,800 皮膚 1,700 喉頭 1,000 -
男 性 部位 死亡数 全がん 223,000 肺 55,100 胃 30,000 大腸 28,700 肝臓 17,600 膵臓 17,600 前立腺 12,400 胆嚢・胆管 9,400 食道 9,300 悪性リンパ腫 7,100 腎・尿路(膀胱除く) 6,500 膀胱 6,300 口腔・咽頭 5,500 白血病 5,200 多発性骨髄腫 2,200 脳・中枢神経系 1,600 喉頭 900 皮膚 800 甲状腺 600 -
女 性 部位 死亡数 全がん 157,000 大腸 24,800 肺 22,400 膵臓 17,300 胃 15,800 乳房 14,800 肝臓 9,400 胆嚢・胆管 9,200 子宮 6,700 悪性リンパ腫 5,600 卵巣 4,800 腎・尿路(膀胱除く) 3,500 白血病 3,400 膀胱 2,800 口腔・咽頭 2,400 多発性骨髄腫 2,200 食道 2,000 甲状腺 1,200 脳・中枢神経系 1,200 皮膚 900 喉頭 100
この表を見ると日本人は肺がん、大腸がん、胃がん、膵がん、肝臓がんでなくなっていることが分かります。
肺がん
肺がんは、最大の発症原因は喫煙です。60代以上では成人期に7割以上が喫煙しており、受動喫煙の対策もなされなかったことで死亡数は第一位になりました。
しかし、喫煙率はどんどん低下し受動喫煙対策も普及しつつありますのでこれからは肺がん死は減少するものと思われます。
胸部レントゲンで肺がんを完治できる早期のうちに診断することは困難です。
肺がん発症リスクの高い、40代以降でブリンクマン係数(喫煙年数×喫煙本数)が400を超えている方は1から2年ごとに低線量胸部CTを受けることで、早期での診断が期待できます。
できれば、人間ドックに胸部CTのオプションが付いている施設に受診するか、通常の人間ドックに加えて単独で検査を行っている施設でCTを受けるのが望ましいといえます。
胃がん
胃がんと大腸がんは早期診断はさることながら予防ができる時代になってきました。
早期診断はもちろん重要ですが、胃・大腸がん発症の予防がほぼ確実にできるのです。
胃がんの診断は胃カメラがバリウムに比べて格段に優れています。40歳から始まる健保組合や自治体のがん検診で、これまではバリウムの胃透視検査が主流でしたが胃カメラを選択するチャンスが増えてきています。早期胃がんの診断の確率はこれにより増加してゆくでしょう。
5年前より胃カメラを受けた時にヘリコバクターピロリの有無を調べ除菌する体制が整ってきました。また40歳以上は健診の際にヘリコバクターピロリの検査を同時に受けられます。
ヘリコバクターピロリの除菌による胃がん予防効果は以下のようになります。
- 30代まで…99%
- 40代…95%
- 50代…90%
- 60代…80%
昨年より自治体ごとでの中学生のヘリコバクターピロリ検査および除菌が始まりました。
まだ全部の自治体ではありませんが、導入するケースは増えています。
人間ドックに来ていただいた方でヘリコバクターピロリの検査を受けた方は、30代までは1割ほど、40代以降でも3割程です。
まだまだ実際に検査を受けている方は少ないといえます。
ヘリコバクターピロリ検査は高額ではありません。人間ドックでは積極的に行って除菌の重要性をお伝えする必要があると考えています。
大腸がん
女性が一番多く命を落としている大腸がんは、実はほとんどが予防できることをご存知ですか。
大腸がんの検診は便潜血検査です。便に微量な血液が含まれていると反応します。大腸にがんやポリープ、炎症があると出血するのでそれを検出します。
便検査は2回法ですが、一回でも陽性になったら精査の出ます。
それは大腸カメラになりますが、問題なのは大腸カメラは敬遠されやすくお受けにならない方が多いことです。半数の方が指示通りに受けないことが分かっています。下剤を飲むのがつらいからというのがもっとも多い理由です。
大腸カメラで便潜血検査が陽性になるのは5から10%ほどでその中で3から4%に大腸がんが見つかります。
ポリープがあると便潜血で陽性になることが多いのですが、ポリープを大腸カメラで見つけた場合は切除することになります。ポリープを切除することで大腸がんの9割以上は予防できます。
男女合わせるとがん死の第二位の大腸がんは予防できるがんなのです。
便潜血で陽性になっても大腸カメラを受けないことは貴重なチャンスを失ってしまったといえます。
一度大腸ポリープがあってポリープ切除を受けた方は、またポリープができることが多いので、その後も保険診療で大腸カメラでポリープを切除し続けてもらうことができます。この場合大腸がんを発症する可能性は1割を切りますし、ほとんどの大腸がんは早期で診断されます。
残念ながら、女性のがん死が一位なのは最も大腸がんを発症する60代以降の方ががん検診を3割しか受けないこと、便潜血陽性になっても指示通り大腸カメラを受けないことが原因なのです。
大腸ポリープは40代から発生してきます。40代から始まるがん検診をしっかり受けて便潜血陽性の場合は大腸カメラを受けることをお忘れなく。
肝臓がん
肝臓がんはほとんどがB型C型肝炎ウィルスによるものです。
肝炎ウィルスはABCDEと5つありますが、肝がんを引き起こすのはBC型のみです。
B型については感染している母親から生まれた乳児や医療従事者などの感染に機会が多い職種の型はワクチンの対象になります。
C型のワクチンはありません。
特定健診で多くの場合B型C型の有無は検査します。
ウィルス感染があって肝機能異常が確認されると肝炎の発症を疑い、精査や治療が開始されます。慢性肝炎、肝硬変を経て発症して15年から30年ほどで肝がんとなります。
以前はインターフェロンの治療が中心で副作用が多く効果が少ない状態でしたが、優れた薬剤が開発され、慢性肝炎以降の進行が止まりがんの発症は高い確率で予防できるようになりました。
なお40代までの若い世代はB型C型肝炎の感染者は少ないので、問題となるのは50代以降の世代です。
すい臓がん
すい臓がんの問題は、早期で診断することがきわめて困難なことです。多くの場合進行がんか末期がんで発見されます。 腹部超音波検査、腹部CT、PETなどでも早期での診断は難しいといえます。 しかし、手術後の再発や末期がんの優れた治療薬が開発され、延命の確率が飛躍的に高まりました。 まだ研究の段階ですがマイクロRNAの検査で早期膵がんの診断に成功しています。10年以下には実用化が望まれています。
乳がん
乳がんは一生に11人に一人の方が発症する頻度の高いがんです。 9万人が発病しますが1万5千人の死亡でとどまりますので、最も命に関わりにくいがんです。 30代から発病しますが、発病のピークは40代から50代です。
問題は、頻度の高いがんなのに40代50代の方たちの乳がん検診受診率は4割ほどで高くないことです。 30代は乳腺超音波検査が適しています。40代以降はマンモグラフィーが適切な検査で、1年か2年に一度がん検診で1,000円ほどか無料で受けられます。 乳がんは縮小手術が主流で、乳房を切断する方は3割です。切断せず乳房温存手術ですめば、日帰りや数日の入院です。手術以外に放射線療法、抗がん剤、ホルモン療法、ハーセプチンのような分子標的療法があり、がんの状態によって選択されます。 40代以降にマンモグラフィーを定期的に受ければ、多くの場合早期で診断できます。 進行がんとなれば乳房切断となって数週間の入院と抗がん剤や放射線療法での複数回の入退院となります。40代50代の働き盛りの大切な時間を奪われるのはとても残念なことです。
日本人のメジャーながんのポイント
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肺がん
- できれば発病予防のために40代までに禁煙すること
- 40代以降でブリンクマン係数(喫煙年数×喫煙本数)が400を超えている場合は1から2年ごとに低線量胸部CTを受ける
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胃がん
- 40代以降に検診で受けられるヘリコバクターピロリ検査(ABC検査)を受け、陽性であれば除菌治療を受ける
- 40代以降は除菌しても胃がん発症は0%にはならないので定期的に胃カメラの検査を受ける
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大腸がん
- 便潜血検査で陽性であれば大腸カメラを受ける 大腸ポリープが見つかったら切除してもらう
- 一度大腸ポリープがあって切除したらまた数年後にできることが多いので、医師の指示に従って1年から3年ごとに大腸カメラを受ける
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肝がん
- B型C型肝炎ウィルスが陽性で肝機能障害があったら精査、定期通院、治療を受ける
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乳がん
- 近親者に乳がん発症者がいる場合は、30代から乳房超音波検査を受ける
- 40歳以降は2年に一度マンモグラフィーを受ける
日本人の命を奪っているメジャーながんの多くは発病を予防できたり早期診断ができるものです。健康診断や人間ドックが日本ほど公的にまた無料や安価にすべての国民が受けることができるのは世界的にもまれです。主にメタボリックシンドロームを診断する特定健診の受診率は高いですが、がん検診の受診率は低いままです。
特定健診でD判定、E判定を受けて、本来は医療機関を受診して再検査や治療を受ける指示が出た場合に指示通りにする方は5から6割にとどまると言われています。
がんのポイントを上記に揚げましたが、ヘリコバクターピロリ陽性で除菌の治療の指示が出て治療される方は7割以下です。便潜血陽性で大腸カメラの指示が出ても実際に受ける方は5割しかいません。
どうしてこのようなことになるのでしょうか。
人間ドックに15年携わってきて気づくのは、私たち医療者が十分に検診のそれぞれの項目の重要性や意味を受診される方にお伝えしていないということです。
忙しい毎日を過ごしていると、健診で引っかかっても再検査や除菌、大腸カメラを受けるために予約し再度受診してという行動に移るにはそれなりの理解と納得が必要でしょう。
健康でありたいと思うのは万人の願いですが、やはり医療機関を訪れるのは面倒なものです。
教えてドックはこの問題を解決するお手伝いをしたいと考えています。
2つのミッションを遂行します。
①人間ドックを行っている施設で、上記について対応している人間ドックのコースが提供されているところをご紹介します。
- ・胃カメラで胃がん検診を行っている
- ・ヘリコバクターピロリ検査を除菌を積極的に行っている
- ・検査結果を当日に説明し、その場で必要な指示をしている
- ・オプションで大腸カメラ、マンモグラフィー、低線量胸部CT、子宮がん検診、PET等を提供している
②人間ドックについての情報提供、Q&Aの設置
教えてドックの「教えて」は、お勧めする人間ドック施設と役に立つ医療情報をお教えしたいという意味でつけました。