人間ドックの効果とは?病気を予防するための人間ドック

人間ドックでは病気の早期発見と早期治療に効果がある

人間ドックは特定健診(メタボ健診)とがん検診を同時に行うものです。

特定健診について

まず特定健診についてその意義をご説明いたします。

特定健診では身体測定(身長、体重、BMI、腹囲)視力、聴力、採血(生活習慣病、肝機能、腎機能)、血圧測定、貧血検査)が含まれます。
この中で特に重要なのは、腹囲と血液検査から分かるメタボリックシンドロームの程度です。

日本人は脳や心臓の血管性病変とがんでそれぞれ3割づつ命を落としています。
血管性病変の原因となるのがメタボリックシンドロームですから、その程度は重要なポイントです。

メタボリックシンドロームの診断基準は以下です。

メタボリックシンドロームの診断基準

例えば、男性でいうと、腹囲が85cm以上あって高血圧、中性脂肪高値、コレステロール異常、高血糖の4つのうちの二つ以上が該当すればメタボリックシンドロームで、一つならメタボリックシンドローム予備軍となるわけです。

男女別に一つの特徴があります。
男性は30代後半からメタボリックシンドロームの傾向が出やすいのですが、女性は50代で初めて発症することが多いのです。

ここで問題なのが、30代で男性がメタボリックシンドロームを発症しても若いからと気にしないことが多いこと、女性は不摂生や肥満があってもデータの異常が出にくいので発症する50代まで油断してしまうことです。

男性の場合ですが、30代で若いと言ってもメタボリックシンドロームが発症していれば生活習慣の改善は必要で、場合によっては医療機関での内服治療を必要とすることもあります。
喫煙率は下がっていますが、運動不足、飲酒、過食などの習慣は悪化する傾向にある様に思われます。メタボリックシンドローム発症の素地は若いうちからで来ているのです。
特定健診は30代から始めるのが理想ですが、30代では社会保険加入の会社で6割、国民保険加入者は3割ほどの受診率です。30代でご自分のメタボリックシンドロームに気づいていない方が多くいらっしゃるのです。

30代にしておくべきことは、男性は特定健診を年に一度受けることです。
私のクリニックには30代の方が大勢受診されますが、メタボリックシンドローム予備軍は意外に多く、若いうちのほうが修正が効きやすいのでしっかりと食事・運動療法のご指導をしています。

男性では40代から女性では50代からメタボリックシンドロームは発症や悪化をしますので、特定健診を年に一度必ず受けて、結果での指示をよく理解して行動に移していただきたいと思います。

40代や50代になると多くはありませんが、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などの血管性病変で後遺症を抱えることになる方が見られます。特定健診を定期的に受けて必要な対処をすればそういうことは避けられるのです。

がん検診

がん検診は女性は20歳から子宮頸がんの検診が始まります。
40歳からは男性で肺がん、胃がん、大腸がんを受けることができます。女性はそれに加えて乳がん検診が始まります。

日本人はどんながんでなくなっているのでしょうか。

表を見ると日本人は肺がん、大腸がん、胃がん、膵がん、肝臓がんでなくなっていることが分かります。

  • 男 女 計
    部位死亡数
    全がん379,900
    77,500
    大腸53,500
    45,900
    膵臓34,900
    肝臓27,000
    胆嚢・胆管18,600
    乳房(女性)14,800
    悪性リンパ腫12,600
    前立腺12,400
    食道11,300
    腎・尿路(膀胱除く)10,000
    膀胱9,100
    白血病8,600
    口腔・咽頭7,900
    子宮6,700
    卵巣4,800
    多発性骨髄腫4,400
    脳・中枢神経系2,800
    甲状腺1,800
    皮膚1,700
    喉頭1,000
  • 男 性
    部位死亡数
    全がん223,000
    55,100
    30,000
    大腸28,700
    肝臓17,600
    膵臓17,600
    前立腺12,400
    胆嚢・胆管9,400
    食道9,300
    悪性リンパ腫7,100
    腎・尿路(膀胱除く)6,500
    膀胱6,300
    口腔・咽頭5,500
    白血病5,200
    多発性骨髄腫2,200
    脳・中枢神経系1,600
    喉頭900
    皮膚800
    甲状腺600
  • 女 性
    部位死亡数
    全がん157,000
    大腸24,800
    22,400
    膵臓17,300
    15,800
    乳房14,800
    肝臓9,400
    胆嚢・胆管9,200
    子宮6,700
    悪性リンパ腫5,600
    卵巣4,800
    腎・尿路(膀胱除く)3,500
    白血病3,400
    膀胱2,800
    口腔・咽頭2,400
    多発性骨髄腫2,200
    食道2,000
    甲状腺1,200
    脳・中枢神経系1,200
    皮膚900
    喉頭100

肺がん

肺がんは、最大の発症原因は喫煙です。60代以上では成人期に7割以上が喫煙しており、受動喫煙の対策もなされなかったことで死亡数は第一位になりました。
しかし、喫煙率はどんどん低下し受動喫煙対策も普及しつつありますのでこれからは肺がん死は減少するものと思われます。
胸部レントゲンで肺がんを完治できる早期のうちに診断することは困難です。
肺がん発症リスクの高い、40代以降でブリンクマン係数(喫煙年数×喫煙本数)が400を超えている方は1から2年ごとに低線量胸部CTを受けることで、早期での診断が期待できます。
できれば、人間ドックに胸部CTのオプションが付いている施設に受診するか、通常の人間ドックに加えて単独で検査を行っている施設でCTを受けるのが望ましいといえます。

胃がん

胃がんと大腸がんは早期診断はさることながら予防ができる時代になってきました。
早期診断はもちろん重要ですが、胃・大腸がん発症の予防がほぼ確実にできるのです。

胃がんの診断は胃カメラがバリウムに比べて格段に優れています。40歳から始まる健保組合や自治体のがん検診で、これまではバリウムの胃透視検査が主流でしたが胃カメラを選択するチャンスが増えてきています。早期胃がんの診断の確率はこれにより増加してゆくでしょう。

5年前より胃カメラを受けた時にヘリコバクターピロリの有無を調べ除菌する体制が整ってきました。また40歳以上は健診の際にヘリコバクターピロリの検査を同時に受けられます。

ヘリコバクターピロリの除菌による胃がん予防効果は以下のようになります。

  • 30代まで…99%
  • 40代…95%
  • 50代…90%
  • 60代…80%

昨年より自治体ごとでの中学生のヘリコバクターピロリ検査および除菌が始まりました。
まだ全部の自治体ではありませんが、導入するケースは増えています。

人間ドックに来ていただいた方でヘリコバクターピロリの検査を受けた方は、30代までは1割ほど、40代以降でも3割程です。
まだまだ実際に検査を受けている方は少ないといえます。

ヘリコバクターピロリ検査は高額ではありません。人間ドックでは積極的に行って除菌の重要性をお伝えする必要があると考えています。

大腸がん

女性が一番多く命を落としている大腸がんは、実はほとんどが予防できることをご存知ですか。
大腸がんの検診は便潜血検査です。便に微量な血液が含まれていると反応します。大腸にがんやポリープ、炎症があると出血するのでそれを検出します。 便検査は2回法ですが、一回でも陽性になったら精査の出ます。

それは大腸カメラになりますが、問題なのは大腸カメラは敬遠されやすくお受けにならない方が多いことです。半数の方が指示通りに受けないことが分かっています。下剤を飲むのがつらいからというのがもっとも多い理由です。
大腸カメラで便潜血検査が陽性になるのは5から10%ほどでその中で3から4%に大腸がんが見つかります。
ポリープがあると便潜血で陽性になることが多いのですが、ポリープを大腸カメラで見つけた場合は切除することになります。ポリープを切除することで大腸がんの9割以上は予防できます。
男女合わせるとがん死の第二位の大腸がんは予防できるがんなのです。

便潜血で陽性になっても大腸カメラを受けないことは貴重なチャンスを失ってしまったといえます。
一度大腸ポリープがあってポリープ切除を受けた方は、またポリープができることが多いので、その後も保険診療で大腸カメラでポリープを切除し続けてもらうことができます。この場合大腸がんを発症する可能性は1割を切りますし、ほとんどの大腸がんは早期で診断されます。

残念ながら、女性のがん死が一位なのは最も大腸がんを発症する60代以降の方ががん検診を3割しか受けないこと、便潜血陽性になっても指示通り大腸カメラを受けないことが原因なのです。
大腸ポリープは40代から発生してきます。40代から始まるがん検診をしっかり受けて便潜血陽性の場合は大腸カメラを受けることをお忘れなく。

肝臓がん

肝臓がんはほとんどがB型C型肝炎ウィルスによるものです。
肝炎ウィルスはABCDEと5つありますが、肝がんを引き起こすのはBC型のみです。
B型については感染している母親から生まれた乳児や医療従事者などの感染に機会が多い職種の型はワクチンの対象になります。
C型のワクチンはありません。
特定健診で多くの場合B型C型の有無は検査します。

ウィルス感染があって肝機能異常が確認されると肝炎の発症を疑い、精査や治療が開始されます。慢性肝炎、肝硬変を経て発症して15年から30年ほどで肝がんとなります。
以前はインターフェロンの治療が中心で副作用が多く効果が少ない状態でしたが、優れた薬剤が開発され、慢性肝炎以降の進行が止まりがんの発症は高い確率で予防できるようになりました。
なお40代までの若い世代はB型C型肝炎の感染者は少ないので、問題となるのは50代以降の世代です。

将来的にリスクのある病気の予防にも効果が期待できる人間ドック

日本人が命を落としているがんの多くは、実は予防できるのです。
この10年でその体制は急速に整備されてきています。
正しい情報で上手にがんを予防しましょう。

  • 肺がん

    • できれば発病予防のために40代までに禁煙すること
    • 40代以降でブリンクマン係数(喫煙年数×喫煙本数)が400を超えている場合は1から2年ごとに低線量胸部CTを受ける
    • 呼気中の一酸化炭素濃度を測ることで実際にタールなどの発がん物質の体内への取り込み具合が分かるので、高い場合は減煙、禁煙をする
    • 禁煙外来は以前は喫煙本数等で規制がありましたが、現在は喫煙者は誰でも受診できます。3か月で5回の通院です。月に保険が3割負担の方で6千円で診察、服用ができます。男性は7割以上が成功します。女性は再喫煙が多い傾向ですが、1年経てばまた保険で受診できるので、何度でもトライしましょう。
    • 人間ドックで呼気中の一酸化炭素濃度を測定していれば、ご希望ください。実際に発がん物質であるタールを摂取する量に比例しますので、禁煙するタイミングを把握しやすくなります。
  • 胃がん

    • 40代以降に検診で受けられるヘリコバクターピロリ検査(ABC検査)を受け、陽性であれば除菌治療を受ける
    • 40代以降は除菌しても胃がん発症は0%にはならないので定期的に胃カメラの検査を受ける
    • 40歳からヘリコバクターピロリ検査は健診と同時に受けるようになりました。自治体での中学生のヘリコバクターピロリ検査および除菌も普及してきました。20代30代のみが取り残されていますので、人間ドックの際は積極的に受けましょう。
  • 大腸がん

    • 便潜血検査で陽性であれば大腸カメラを受ける 大腸ポリープが見つかったら切除してもらう
    • 一度大腸ポリープがあって切除したらまた数年後にできることが多いので、医師の指示に従って1年から3年ごとに大腸カメラを受ける
  • 肝がん

    • B型C型肝炎ウィルスが陽性で肝機能障害があったら精査、定期通院、治療を受ける
  • 乳がん

    • 近親者に乳がん発症者がいる場合は、30代から乳房超音波検査を受ける
    • 40歳以降は2年に一度マンモグラフィーを受ける

人間ドックの効果を最大限にするポイント4選

人間ドックの検査内容に基準がないと同じように、検査結果とそれによる指導や指示にも統一した基準はありません。
私のクリニックでは、前回に受けていただいた他施設の検査報告書を持参いただいて拝見します。前回の受診時との差を確認したいからです。

その際に感じることは、分かりにくい書式が多いことです。
もちろんがんの有無などは明確ですが、メタボリックシンドロームの結果とその指示が分かりくいことが多いのです。

血圧、コレステロール、中性脂肪、血糖値について異常であることは分かっても、その程度は一般の方には理解しにくいのです。
指示としては医療機関での再検査や治療開始となりますが、ご本人がそのデータの意味をある程度理解し、納得しなければ、指示に従うことはできないのです。

これは一例ですが、ここまで詳細に指示を記載すればどうすればいいのかわかりやすいですが、このABCDという文字の意味は医療機関によって異なりますので、ご注意ください。

総合判定

判定 判定の意味
A 正常か、あるいは健康上とくに問題のない所見のみでした。
B 軽度の異常所見を認めました。生活習慣の改善や1年に1回の健康診断で健康管理をこころがけましょう。
B1 軽度の異常所見を認めましたが、1年に1回の健康診断で経過を見ていけば問題ありません。
B2 軽度の異常所見を認めました。
日常生活には差し支えありませんが、この所見について医師に相談すれば改善できるかもしれません。
B3 軽度の異常所見があり生活習慣の改善が必要です。
将来、生活習慣病などにならないように、今のうちに栄養指導などを受けることをお勧めします。
B4 異常所見を認めました。
日常生活での注意や治療などは必要ありませんが、1年に1回は忘れずに健康診断を受けて、経過を見ていってください。
C 医師の診察や、保健指導を必要とする所見がありました。
C1 今回の所見に関連する症状がある場合には医療機関への受診が必要です。
とくに症状がない場合でも、1年に1回は健康診断を受けて、経過を見ていってください。
C2 生活習慣の改善が必要です。
保健指導を受けて、6ヶ月後に生活習慣改善の効果を調べるために、医療機関を受診してください。
C3 直ちに生活習慣の改善が必要です。
保健指導を受けて、3ヶ月後に生活習慣改善の効果を調べるために、医療機関を受診してください。
C4 異常所見を認めました。
経過を見るために、6ヶ月後に医療機関を受診して再検査を受けてください。
C5 異常所見を認めました。
経過を見るために、3ヶ月後に医療機関を受診して再検査を受けてください。
C6 異常所見を認めました。
この所見について医師の診察を受けて、今後の方針を決めてもらってください。再検査、もしくは専門医の診察が必要になる可能性があります。
C7 異常所見を認めました。
医師の診察を受けて、医師の監視のもとで、経過を見ていってください。
D 精密検査や治療を必要とする所見がありました。
D1 精密検査が必要です。
D2 治療が必要です。
D3 早急に治療や精密検査が必要な所見を認めました。
医療機関を受診してください。
E 現在治療中、もしくは指導・改善中、または経過観察中の所見があります。

さてあなたの検査結果はいかがですか。前回のを確認して見てください。
理想をいえば、メタボリックシンドロームに関連するデータは受診当日に分かって、すぐにご指導ができる体制があれば指示の意味が良くお分かりになっていただけるかと思います。

一方では、結果のコメントが詳しすぎて長文だったり、結果と指導が交互に羅列してあったり、具体的にどうするのか分からないような指示もあったりします。

実際には、再検査の指示が出てお受けになる方は6割程、治療の指示が出て実際に医療機関でお受けになる方は5割程です。
これでは健診の意味がまったく失われてしまいます。
さすがにがんの疑いの場合は、受診しない方時はおられません。
やはりすぐに命に関わるがんと発作・発病までに時間のあるメタボリックシンドロームとでは、危機感の抱き方が違うようです。

結果を機械的にお伝えするのではなく、行動に移りやすくなるように、理解・納得できる検査結果を出してゆく努力を医療機関がするべきではないかと考えています。
もし、検査結果や指示が分かりにくい時は、遠慮せずに施設にどんどん質問していただくのがいいと思います。

医師による説明を踏まえて今後の生活にいかす

せっかく人間ドックを受けたらその結果を踏まえて、必要であれば生活習慣を変えましょう。
普通に暮していて食事や運動量が適切な方はあまりいらっしゃいません。

問題は、そのような生活の中で健診で異常があり対処する必要が指摘された場合は、その問題の程度を把握し、それに応じて生活習慣を変えたり再検査・治療などの指示に従っていただくことです。

質の高い人間ドックの施設を選ぶ

検査項目として以下が含まれている人間ドックを選択しましょう。

胃カメラ

早期胃がんはバリウム検査では分かりません。胃がんの前段階である萎縮性胃炎の程度も分かり、胃カメラの検査の必要度が判断できます。胃カメラを施行すると、同時に保険でヘリコバクターピロリ検査を受けることもできるので、直後に除菌での胃がん予防ができます。

腹部超音波検査

多くの人間ドックには含まれます。メタボリックシンドロームに関わる脂肪肝の診断ができます。
その他肝臓では肝腫瘍、肝血管腫、肝のう胞、肝石灰化、慢性肝炎、肝硬変などが分かります。
また、胆のう、腎臓、すい臓の一部、脾臓の病変も診断できます。

オプションがあれば受けたい項目

ABI検査

全身の動脈硬化の程度を判断できます。血管年齢は比較的正確に出せます。

骨密度検査

60代異常尾女性で問題になってくる骨粗鬆症の程度が分かります。
内服治療や注射での治療が効果を揚げています。

胸部CT

低線量の胸部CTでの肺がんの早期診断が評価を高めています。
男性では8万4千人が発症し、5万5千人が肺がんで命を落とします。
がんの中で最も致死率の高い部類に属します。
胸部レントゲンで診断されるのは多くは進行がんか末期がんで、手術による完治が見込めないのが理由です。
40代以降でブリンクマン係数(喫煙年数×喫煙本数)が400を超えている場合は1から2年ごとに低線量胸部CTを受けましょう。

年齢にあった検査でより高い効果を

特定健診は男性は30代から、女性は40代から毎年受ける事が重要です。

がんについては、女性は20歳から2年に一度継続して子宮頸がん検診を受け、40歳からはマンモグラフィーを受ける事です。
男子は、40代からがん検診を2年に一度受けることです。

30代までの女性の子宮頸がん健診受診率が低く、30代での男性の特定健診受診率も低いレベルです。
40代では男女ともにがん検診受診率が6割を超えますが、60代以上の受診率は3割に落ち込みます。

命に係わる疾患を発症前に予防したり早期診断で軽い治療で治癒させることができる時代です。
公的な健診は自治体でも健保組合でも、必要な時期に設定されています。
郵送や社内で連絡があれば無視せず必ず期限内に健診を受けましょう。