PET検査ってどうなの?あらゆる角度から検証してみました
PETはご存じない方も多いかもしれません。
人間ドックのなんとなく高価なオプションという認識が多いようです。
PETとは、positron emission tomography (陽電子放出断層撮影) の略で、放射能を含む薬剤を用いる、核医学検査の一種です。
PETはがんの診断に用いられます。がんの診断といえば、レントゲン、内視鏡、超音波、MRI、腫瘍マーカーなどが有名ですね。
ここではPETの原理、どんながんに有用か、長所や短所をご紹介してゆきたいと思います。
PETはどうやってがんを診断するのでしょう
がん細胞と正常な細胞の違いの一つは分裂する速度です。
正常の細胞にはテロメアというDNAの分裂に関わる構造があって分裂の回数に限度があります。分裂の回数がある程度に達すると細胞死を遂げます。
一方がん細胞の多くはテロメラーゼというたんぱくを持ち、テロメアを延長させることができ分裂するの回数に制限はありません。寿命がなくいわば不死化するのです。
一旦発がんすると何も治療をしなければがん細胞は無秩序に分裂を繰り返して腫瘍を形成します。
細胞の分裂に必要なのがエネルギー源であるブドウ糖です。
分裂を際限なく繰り返すがん細胞のエネルギー消費は多く、正常な細胞に比べて約3~8倍のブドウ糖を消費する性質があります。
従ってがん細胞には正常細胞より多くのブドウ糖が集積します。
PETの検査はまずブドウ糖にポジトロン核種という標識を付けたものを点滴で体内に入れます。がん細胞にブドウ糖によって運ばれたポジトロン核種はγ線を放出しますが、それをPETカメラでとらえるのです。
ブドウ糖を取り込んだがん細胞の部分はPETカメラでは黒く表示されます。
赤い矢印の先に映っている黒い集積は転移性肺がんです。
PET検査はどのように受けるのでしょう
- 検査前5~6時間は絶食します。特に糖分を含む物は取れません。
- 検査液を点滴で静脈に注射をして60分待ちます。
- 台に横になり20分ほど全身を探索します。
「すべてのがんが見つかる」は間違い!PET検査が得意・不得意ながん
PET検査が得意ながん
- 大腸がん(早期大腸がんの診断は困難ですが進行がんの診断率は高いです。)
- 甲状腺がん
- 頭頚部がんと食道がん(喫煙や飲酒で増えるがんなので一日喫煙本数×喫煙年数が600を超えている方、飲酒量が多い方はPETをおすすめします。)
- 乳がん
- 肺がん(PETは通常CTと同時に行うのでより早期での診断率が高まります。)
- 子宮がん、卵巣がん
- 転移性肝がん
PET検査が不得意とするがん
1㎝以下の微小ながんは診断しにくいとされています。小さく広く散在するがんは集積が確認できません。
- 脳腫瘍(正常でも集積するので病巣の診断は難しく、MRI検査が適しています。)
- 腎臓、膀胱がん(尿中のブドウ糖が反応するので、CTや超音波検査が適しています。)
- 原発性肝がん(正常で集積するので、腹部超音波検査が適しています。)
- 胃、大腸がん(動いているので早期では診断は困難です。胃カメラ、大腸カメラが適しています。)
- 子宮、卵巣(月経周期によって影響されるので診断できるのは月経後1週間のみです。MRI、経腟超音波検査が適しています。)
- 前立腺がん(がんがなくても集積します。)
PET検査でどれだけがんは見つかる?精度について徹底検証
速い速度で増殖するがん細胞がブドウ糖を正常細胞よりも多く取り込むことを利用する検査です。他の検査よりも早期にがん診断ができる場合があります。
胃がんや大腸がんなどの消化器がんは他に優れた検査があるのでPETは有用ではありません。食道、胃、大腸、肝臓、肺のがんは早期での診断は困難です。乳房や脳は単独で検査することで比較的早期で診断することができます。がんの転移や再発を早期で診断することができます。
例えば大腸がんの場合は、9%の確率で見つけられるというデータも
PET検査で大腸にFDGの異常集積の認められた例で大腸内視鏡検査を行なうと約9%で大腸がんが見つかっています。
一般の集団検診にスクリーニングテストとして使用されている便潜血反応の陽性例では約3-5%で大腸がんが見つかるのでPET残法が優れているといえます。
PET検査のメリット・デメリット
PET検査は優れた点はありますが、万能ではありません。メリット、デメリットを見てみましょう。
PET検査のメリット
- 一回の検査で全身を検索できる
レントゲン、CT、超音波検査、MRI、内視鏡などの検査は部位別、臓器別に検査をしますので、同時に広い範囲を検査することができません。PETはCTと同時に行われ,がんの位置や広がりを全身同時に検査できます。 - レントゲンやCT、超音波検査などの他の検査で診断できなかった診断しにくいがんを早期の常態で検出できる
例としては、肺がん、前立腺がん、悪性リンパ腫、すい臓がんが揚げられます。 - 検査に痛みや苦痛がない
- がんの進行度や広がりの度合いが分かる
- がんと診断されて他の検査で病気診断、再発や転移の診断ができない場合は保険で検査ができる
- 造影剤を使わないのでアレルギーがあったり腎機能が悪い方もPETは受けることがでる
頭頚部がん(鼻や喉のがん)、肺がん、乳がん、膵臓がん、胆嚢がん、大腸がん、卵巣がん、子宮体がん、悪性リンパ腫
このうち、肺がん、乳がん、大腸がんは、PETよりも精度の高い検査として胸部CT(肺がん)、マンモグラフィ/乳腺エコー(乳がん)、大腸カメラ(大腸がん)が存在しています。また、生理中は子宮体がんの診断が難しくなります。 - 「全身のがんを見たい」という方に適している
- 転移性がんの診断に優れている
女性のがん死数の一位は大腸がんです。がんが進行するとリンパ節や肝臓に転移することがあります。
この場合も早めに転移の有無を判定して速やかに治療することが重要です。
PETはリンパ節転移の診断は得意ではありませんが、肝臓などへの転移の診断能はCTを上回ります。
現在のPETはCTと同時にすることで転移の有無や転移の部位を正確に特定できるようになっています。
PET検査のデメリット
- 8万円から10万円と検査費用が高額
- 早期の胃がんや大腸がんなどのがんの診断は困難
- 脳、心臓、肝臓などのブドウ糖消費の高い臓器にはがんがなくても集積してしまう
- 糖尿病があると筋肉に反応してしまう
以上より、どちらかというと通常のがん検診を受けた上に、診断しにくいがんの診断を目指す付加的な位置づけとなります。費用も高額なので、3年から5年に一度受けるかというのが一般的です。 - 擬陽性が多い
炎症が起こっている部位に集積するので、感染症やアレルギー疾患があるとがんではない部分に反応してしまいます。
また、正常細胞でも脳や腸、肝臓などのブドウ糖の消費が多い部位には集積します。
一部の甲状腺腫瘍や大腸ポリープなどの良性腫瘍にも集積するのです。
がんでないのに反応してしまうことを擬陽性と呼びます。
擬陽性でも二次検査をすることになりますが、無駄な検査になりますので擬陽性が多いことは問題となるわけです。 - 検査費用が高い
一般的ながんの検査にの費用は、超音波検査は数千円、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡は1から2万円台、MRIは2から3万円台、腫瘍マーカーは代表的な4種類で数千円くらいです。
PETの8から10万円というのはやはり破格です。 - 被ばくがある
注射の量、体の状態にもよりますが、PET/CT検査ではないPET検査で浴びる放射線は2~4ミリシーベルト、PET/CT検査ではCTの被ばくが加わるため、約10ミリシーベルトです。
PET-CT検査は診断精度が高いかわりに被ばくが多くなります。しかし、検査の放射線によって健康被害が起きることはありません。 - 糖尿病があると診断能が落ちる
空腹時血糖200mg/dl以上の場合、診断能が極端に落ちます。
糖尿病のコントロールができていない場合は受けることができません。
PET検査を受けるべき人・受けなくてもいい人はこう分かれる!
まず保険適応となる疾患をご紹介します。保険が適応されれば費用は3万5千円程になります。
がん
悪性腫瘍(早期胃癌を除き、悪性リンパ腫を含む)で、他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない場合のみ。通常のがんの診断や抗がん剤や放射線療法の効果判定には適応になりません。
以上より、人間ドックやがん検診では適応にならず、すでにがんを発症していて強くがんの再発や転移を疑う場合のみということになります。実際にはあまり適応にならないということになります。
がん以外
- ・てんかんにおぴての外科治療のための病巣診断
- ・大血管炎
- ・虚血性心疾患における心不全:バイパス手術検討のための心筋バイアビリティ診断
PET検査を受けるべき人
それでは、8万円以上の自己負担でも受けた方がいい方はどういう方でしょう。
現在日本人が多く発症したり死亡しているがんは肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、乳がん、すい臓がん、前立腺がんなどです。これらの多くは実はがん検診を受けていると肺がん以外は早期に診断できたり予防できるものが多いのです。
PETはこれまでの検査で検出できなかったがんを診断することができますが、一方ではがんでない場合も陽性所見となってしまう欠点があります。その場合は二次検査の指示が出ますが、がんではないので結果的には無駄な検査を受けたことになります。
費用が高いだけに選択は慎重にしたいものです。
以下が受けた方がいい方の特徴です。
簡単にいえば、がんの発症の原因があるか、予防をしていない方でPETで診断しやすいがんのリスクの高い方です。
あくまでもがん検診を受けているのが前提です。
がん検診の代替にはならないことをお忘れにならないでいただきたいと思います。
- 喫煙している
- 酒量が多い
- がん検診を長期間受けておらず、がん検診と同時に受ける
- 大腸ポリープを放置している
- 乳がん検診を5年以上受けていない
- 子宮頸がん検診を5年以上受けていない
PET検査を受けなくてもいい人
がんを発症する確率が高くない40歳以下の若い方は受ける必要はありません。
また、基本的にがん検診を定期的に受けている方は必要ないでしょう。
がん検診とは20、30代での子宮頸がん検診、40歳から始まるがん検診(胃がん、大腸がん、肺がん、女性の乳がん、子宮がん)を指します。
しかし、現実には若い女性の子宮頸がん受診率は3割ほど、40、50代以降でのがん検診受診率は4、5割です。
そうすると、PETを受けなくていい方は意外に少ないのかもしれません。
検診にはがん検診と特定健診がありますが、特定健診と同時に自治体や健保組合の検診でB型肝炎、C型肝炎、ヘリコバクターピロリ、検尿があります。がん検診以外にもがんの診断や予防につながる検査は行われているわけです。
40代以上でがん検診も特定健診も受けない方は半数に上ります。
そういう事情ではがん検診を受けていない場合は、本来受けなくていいPETもがん検診と同時に受ける選択肢は間違いではないということになります。
PETは本来必要はない・・・しかし
二人に一人ががんを発症し、三人に一人が亡くなっている時代です。
男性では、一生の間に9人に一人が胃がんに、12人に一人が大腸がんに、12人に一人が肺がんになります。
女性では、18人に一人が胃がんに、15人に一人が大腸がんに、26人に一人が肺がんに、11人に一人が乳がんに、100人に一人が子宮がんになります。
しかし、以下のようにがん検診受診率は低いままです。
結論から申し上げますと、40代以降で5年以上がん検診を受けていなければがん検診と同時にPETを受けましょう。
そして、それ以降は2年に一度がん検診や内容の充実した人間ドックを受けるのが望ましいといえます。
医学の進歩によってがんの早期診断も予防も目覚ましい成果をあげています。
一方では本来なら助けられた命を奪われてしまう患者さんが後を立ちません。
胃がん、大腸がんは内視鏡手術が主流で数日で退院できます。乳がんは半数以上は乳房を温存する手術で済んでいます。
7割が命を落とす肺がんは胸部CTで救命率は向上しています。
がんを発病して4割の方が離職しています。
早期で診断すれば、数日や数週間で退院し職場復帰ができます。
働き盛りの職場や豊かな老後は、がん検診を受けてこそ得られるものです。
がん検診受診率が低い現実がある以上、PET受診の意味はあるということになるのでしょうか。
実際的には、がん検診を受けていない方や喫煙や飲酒の多い方はは3年から5年に一度、がん検診を定期的に受けている方は5年から10年に一度の間隔でPET検査をお受けになるのがいいと思われます。